SSブログ

シャドー・ピッチング [トレーニング・メソッド]

 ピッチャーが自主トレで必ずといっていいほど取り組む、【シャドー・ピッチング】

 なんのためにするものなのか?

 ある日、息子にやらせていて、その意義を突き詰めて考えたことが無かったなぁ、と気付いた。

 「素振り」とくれば「シャドーピッチング」だろう、などと、前回の「素振り」と同じようなスタートをしてしまったが、確かに、ピッチングにおける「シャドー・ピッチング」は、バッティングにおける「素振り」と同じ、「フォームを固める」という大事なエクササイズであるはずだ。だが、どちらかというと、フォームを固める、というより、ピッチング練習がしたいけど、室内練習場がなかったり、夜に仕方なく、その代わりにやるもの、というイメージを払しょくしきれていないような気がする。

 今現在、シャドウ・ピッチングをするうえで最適なグッズだと確信するのがこの“なげる~ん”

久保田スラッガー なげる~ん IB-1601

久保田スラッガー なげる~ん IB-1601

  • 出版社/メーカー: 久保田スラッガー
  • メディア: その他

 よく、タオルを使って行っている選手が多いと想うが、私は断然これをお勧めする。

 なぜこの器具が良いのか。

 私は、初心者のうちは、ブルペンでピッチングをガンガンするより、まずは「シャドーピッチング」でしっかりとフォームを作ってからボールを手にした方がいいと想うようになったのだ。

 その、訳は…

 

 

 拙記「「投げ込み」は是か非か?」でも論じたけれど、投げるための筋肉は、投げることによってしか鍛えられない、という指導者の方がいる。

 全く正しい、と私も想っている。

 何かのスポーツ動作をする時、その同じ動作をなぞりながら“筋トレ”することが“一番効果的”だ、とは、誰しも想うだろう。

 だから、普段使うバットよりも重いバットで素振りをしたり、重いボールを投げたりして練習するのだ(しかし今時、肩肘の負担を考えて、重い鉄球を投げ込ませたりするようなアホな指導者はいないだろうが)。

 が、同じ動作のみを繰り返すと、身体の同じところしか使わない結果になり、筋肉の硬化を招く、という。「身体を動かすための筋肉を、動かしているのに“硬く”なる」という意味が、自分の頭の中で良く「イメージ化」できないんだが、とにかく、ぽよんぽよんと弾んでいたゴムが弾力性を失い、ものを跳ね返さなくなってしまう、ような状態だと考えれば良いのかと考えている。つまり、コラーゲンを失くした弾力性の無いお肌の様なもの…かな?

 まぁ、私の「解釈」はどうあれ、“硬化”すると、どうしても故障・怪我発症率の可能性が増えるのは間違いあるまい。私は、これを「一極集中型疲弊」もしくは「飽きるほど同じことやると怪我しやすい症候群」と呼ぶ^^;

 特に有名なのが、野球肩・野球肘、という症状。

 いくらピッチャーだからって、千球も二千球も投げ続けていたら、スタミナがつき肩も強くなる前に、肘関節か肩関節が悲鳴を上げてしまうだろう。

 なにせ、「ボールを投げる」という行為は、普段からいつもするような動作のうちではない。

 人類は、太古の昔、狩猟したり敵を撃退するために、石を投げたり槍を投げたりしたのだろうが、まぁ、どちらかといえば特殊な行動だ。

 歩く、という動きなら、これは普段からいつもやっていることだし、負荷も少ないから、一日平均3千歩しか歩かないような人が、健康のために2万歩歩いたとしても、ちょっとは筋肉痛になる程度で滅多に足首が痛いとか、膝が痛いとかの故障にはならないだろう(そら、続けて10万歩ぐらい歩いたら、膝関節が擦り切れるかもしれないが…)。

 普段の生活の中では“滅多にしない動作”は、やはり、“練習として”やりすぎると、体のあちこちに異常が出てくると想うのだ。野球体操の著者も、「野球は、非人間的な動きを必要とする競技スポーツである。」と言っている。

野球体操

野球体操

  • 作者: 須田 和人
  • 出版社/メーカー: ベースボールマガジン社
  • 発売日: 2011/01
  • メディア: 単行本

 ので、野球において必要な体力を補完するために、走り込みをやったり、ウェイトトレーニングをしたりするのである。

 その動作で使う筋肉や腱を、脇で支えている部分も鍛えることによって、動作そのものに使う筋肉や腱の負担を少なくしようとしているのが「その運動に有効な」“基礎体力UPトレーニング”であるはず。

 【スタミナ】をつけるためならば、1000球もピッチング練習するより、投球数は200球ぐらいに押さえておき、800球投げるために必要な時間をランニングに当てた方が効率的でありなおかつ足腰も鍛えられ、安定感も増しフォアボールも減り、当然故障する恐れも減少し、結果的にピッチングというパフォーマンスのレベルは上がる、というわけだ。

 試合で投げる100球は、練習で投げる300球分以上もの疲労感がある、といって、過酷な投げ込みを指示する指導者もいらっしゃるらしいが、そら、1ヶ月に1回ぐらいならそれも“刺激”になってプラトー打破には良いかもしれないけど、ちょくちょくやって肘肩痛めて投げられなくなったらなんにもならない。

 試合で投げる球数より、1割2割多い程度の投球練習で充分だろう。それに、試合では、イニングごとに休憩タイムが入るわけで、1イニング平均20球も滅多に投げないわけだから、ブルペンで立て続けに100球投げるほうがやはりどう頑張っても過酷であるはず。

 “投げ込み”は、“走り込み”とイーブンで捉えられなければいけないトレーニングだと理解するべきなのでありましょう。

 しかもここ数年、「球数制限」という考え方がかなり重要視されるようになった。アメリカ野球では、肩は“砂時計”に例えられ、投げる、ということは、砂時計の砂が落ちていくようなもの、つまり消耗品であるために、なるべく投げさせない、という。ので、レッドソックスの様に100球どころか、50球程度しか投球練習で投げさせないメジャーリーグのチームもある。

 しかしそうなると、肘肩の故障が恐いとはいえ、いくらなんでも「投げるために必要な筋肉」を更に鍛えるために、なにか代替的なトレーニングが必要になってくるのではなかろうか。

 「菊とバット」のロバート・ホワイティングさんもインタビューの中で、「アメリカは、球数、球数、と神経質になり過ぎる。何億円も年棒を取る先発ピッチャーなのに、100球投げたら5回でも6回でも交代なんていうのはおかしい」とおっしゃっていた。

 実際、10年ぐらい前は、メジャーリーグでも先発ピッチャーが150球ぐらいなげるケースもけっこうあったらしい。「球数制限」という考え方は、全く最近出てきたものなのだ。

 冒頭にも紹介したが、「投げるための筋肉は、投げることによってしか鍛えられない」とおっしゃったのは、阪神タイガースが優勝したときの投手コーチであり、日ハムでダルビッシュ有投手を育て、楽天で田中マー君を鍛え上げた、現楽天の佐藤投手コーチである。

佐藤義則 一流の育て方 ダルビッシュ有 田中将大との1600日

佐藤義則 一流の育て方 ダルビッシュ有 田中将大との1600日

  • 作者: 永谷脩
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2010/12/01
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

 佐藤義則氏は、バリバリの投げ込み推奨派。ご自身、若かりし頃、秋季キャンプで、毎日200球の投げ込みをしてピッチングフォームを作ったとおっしゃっていた(ただし、この猛特訓のせいで腰痛を発症、1年間は棒に振っている。活躍するのは、その故障が治ったあと)。佐藤氏の「砂時計」は、信じられないほどでかいモノであったのか?

 「投げ込み」か、それとも「球数制限」か。

 さて、どうする。

 ピッチング能力を上げるためには、ボールを投げる動作を繰り返すのが良い、だが、ボールを投げてばかりいると肘・肩に不安が出る、では、ボールを投げないで、投球動作をすればよいではないか。

 しかし、何も手に持たないで、投げる“フリ”だけするのは、なんかしっくりこない。虚しいし、ちと、馬鹿らしい。

 ではではどうする、と更に考えた上で編み出されたのが、タオルを手に持ってやる「シャドーピッチング」というエクササイズなのでしょう。

 が、このタオル・シャドーは、正直、やりにくい。

 自分でやってみたのだが、どーもしっくりきません。腕の振りに対して、タオルの動きに妙な“違和感”が残り、実際にボールを投げる時の腕の振りの“速度の感覚”とオーバーラップしにくいような気がする。

 これは、私の様な野球未経験者のたわごとだけでは無くて、最年長記録保持者の工藤公康氏も言ってたし、前田健氏もその著書の中で言及していらっしゃいましたな。

 工藤公康氏は、子供が公園で球遊びをする時に使う、プラスチックバットでやるシャドー・ピッチングを提唱されていらっしゃった。

 独創的だと感心したのが、前田健氏が著書の中で紹介していた、「タオルを叩くシャドー」であろう。

ピッチングメカニズムブック 理論編―ピッチングの仕組み

ピッチングメカニズムブック 理論編―ピッチングの仕組み

  • 作者: 前田 健
  • 出版社/メーカー: ベースボール・マガジン社
  • 発売日: 2010/03/13
  • メディア: 単行本

 『 シャドーピッチングは、全国どこに行っても、当たり前のようにタオルを持って行われています。一体なぜでしょうか。おそらくは、何も持たないと腕が抜けてしまうような感じがするので、ボールに代わる適度な抵抗感をつくるためでしょう。しかし、私にはタオルを持つ必要性がわかりません。タオルを持つことは、腕の振りの邪魔になることはあっても、プラスになる要素が見当たらないのです。』

 とまで、こきおろしていらっしゃるのだが^^; いやまったく、私自身まさにそのとおりに感じていたので、「我が意を得たり!」とこの部分を読んだ時、思わず膝を叩いてしまったものだ。

 前田健氏の提唱する、シャドーピッチングは、タオルを使う事は使うけれども、手に持って振らずに、垂らしたタオルを指先で叩くようにシャドーピッチングする、という独創的なものだ。

 普通、タオルを使用したシャドー・ピッチングは、タオルの端をもって振るように使う訳だが、タオルを“叩く”シャドー・ピッチングは、タオルの角がちょうどボールリリースのポイントに来るように、タオルを物干しざおやスタンドか何かに止めて垂らしておき、そのタオルの角を指先でパチンとはじくようにシャドー・ピッチングを行うのである。

ピッチングメカニズムブック 改善編―ドリル&トレーニング

ピッチングメカニズムブック 改善編―ドリル&トレーニング

  • 作者: 前田 健
  • 出版社/メーカー: ベースボール・マガジン社
  • 発売日: 2010/03/20
  • メディア: 単行本

 なぁるほど、と考えてさっそく自分で手製のスタンドを作り、そこにタオルを取り付け垂らしてシャドー・ピッチングをやってみたのだが、確かに「ボールを指で弾くようにリリースする」という感覚は掴みやすいかもしれない。皆さん、やってみてください。タオルの端を手で握ってやるシャドー・ピッチングより絶対、リリースの感覚は良くなると想います。

 しかし、うまくリリースポイントがタオルの角にくるように、タオルの位置を設定するのは、非常に手間がかかり面倒くさい。手軽にできるのは、工藤公康氏が紹介されている、プラスチックバットを持ってテニスのサーブの様に腕を振るやり方だが、しかし、自分でもやってみたのだが、プラスチックバットでは、ちと軽すぎて、なんというか、軌道がぶれている様な気がしてしまう。

 そこで、ちょうどよくシャドーピッチングというエクササイズができるようにと、専門に開発されたものが、なげる~ん、という器具。

久保田スラッガー なげる~ん IB-1601

久保田スラッガー なげる~ん IB-1601

  • 出版社/メーカー: 久保田スラッガー
  • メディア: その他

 これは良かったと想っております。なげる~ん自体の説明はまた別記事で紹介してみたいと想います(それぐらい、息子の投球能力向上に役立ったと想っておりますので)。

 

 ということで、「シャドー・ピッチング」

 桑田真澄氏は、「1日50回」のシャドー・ピッチングを、ほぼ毎日、PL時代の3年間欠かさず続けたそうである。

 その1日50回のシャドー・ピッチングが、というか、そういう毎日少しづつの努力が、甲子園最多勝、そして、ジャイアンツのエースとして活躍する身体の基礎を作った、と述べている。

 だがここで疑問なのだが、いくらボールを持たなくとも、ほとんど投球動作と変わらないフォームで、タオルにしろ、「なげる~ん」を使うにしろ、負荷をかけてやるわけだから、やはり、シャドーピッチングとはいえ、やりすぎは害になるのではないのか?

 でも、シャドーピッチングで、肘を痛めた、肩を壊した、という話は今のところ全く聞かない。

 逆に、肘や肩を壊さない、息の長いピッチャーは、スポーツニュースなどの練習風景を見ていると、メニューに「シャドーピッチング」を多めに取り入れている選手が多いような気がするのは私だけだろうか。

 ボールを持たずに、つまり「コントロール」を気にせずに“投げ”れば、もしかすると身体は自然と負荷のかからない、ストレスの無い「腕の振りの軌道」を勝手にトレースして動いてくれるようにできているのではなかろうか。

 ボールをキャッチャーに対して投げるとなると、どうしても「コントロール」を気にしてしまうので、無意識のうちに「腕が縮んで」しまうのではないか。つまり、肘が下がるという現象が、見た目ではほとんどわからなくても実は発生しているのかもしれないし、どこかに「緊張感」が生まれ、思わず筋肉や腱が“硬化”しているのかもしれない。それが、投げるたびに肘や肩にほんの少しづつ微妙なストレスを与え続け、200球、300球と投げていくうちに腱や関節の故障につながっていくのではないか、というのが私の想像である。

 ということは、逆に考えると、フォームが固まっていないうちは、かえって「シャドーピッチング」から取り組ませねばならぬのではなかろうか、という結論に達した、というわけである。

 つまり、ピッチャー候補生の時は、シャドーピッチングを“メインの投球練習”にして、取り組んでいったほうが良いのかもしれない。

 佐藤投手コーチは、「“投げ込み”で肩を壊す奴はいない、投げ方が悪いから、投げ込みで肩を壊すんだ」とおっしゃった。

 この言葉の中に、なにか、“答え”が隠されている様な気がするんだが。

 天気が良く、グラウンドが使用出来れば、やはりついついブルペンでボールを使用して「投げ込み」をさせたくなってしまう。が、ちょっとまった!

 まずは、念入りにシャドーピッチングをさせておいて、しっかりとしたフォームを作っておいてから、「投げるための筋肉」、体力をしっかりつけさせておいてやってから、実際のボールを使った「ブルペンでの投げ込み」を開始すべきではなかったか。

 せめて、ネットに向かってボールを投げる「ネットスロー」程度にさせておいた方が良かったのかもしれない。

 バットを使う素振りも、「フォーム固めのためにやらせる」と、慶大江藤監督はおっしゃっていた。素振りを良くする慶大の選手は、少し形を崩されても、泳がされたり、弱いスイングになる選手が少ない、という評価を受けているようだ。慶大はその強力打線が一番の強みだろうが、その強力打線を形作っているのは、ピッチングマシンを使ってガンガン打つフリーバッティングでは無く、ひたすら「素振り」をやっている事(毎日1000回、約2時間も!!)にあるそうである。

 ピッチングにおいても、シャドーピッチングをしっかりやり、【理想のピッチング・フォーム】を“無意識レベル”にまで身体の中に刷り込ませておくことによって、ゲーム展開に左右されないピシッとしたピッチングフォームで、筋肉を“過度に”緊張させることなく、“無我の境地”で、アウトコース低めにズバリとストレートを投げ込むことができるようになるのではないか。

 結論。

 投げるための筋肉は、投げることによってしか鍛えられない。

 のであれば、なるべく、投げる動作に近い練習をこなしたい。

 しかしボールを投げる投げ込みは肩肘を壊す恐れがある。

 シャドー・ピッチングとは、だから、+αとして練習に取り入れて、「投げるために必要な筋肉」を鍛える、という目的で行う、のではなくて、実は、もっともっと積極的に、「“投げ込みで肩肘を壊さないためのフォーム固め”に有効なエクササイズ」として捉えなければいけないものなのではないでしょうか。

 いかがなものでありましょうや、ピッチャー志望の皆様方。

 「“積極的”シャドー・ピッチング」の勧め。

 リリースポイントが安定していない子は、ボールを使用した「投げ込み」などでフォームを固めようとせず、シャドー・ピッチングによって先にフォーム固めをがっちりとしておく、という事が必要なのかもしれません。しつこいようですが、決して、室内練習場が無いため、夜、仕方なく「ピッチング練習の代わり」の“体力づくり”の為だけにやるものではない、と思います。

 ところで、またまた長くなってしまったので、「なげる~ん」についての具体的な使用感については次回に。


nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0

トラックバックの受付は締め切りました

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。