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「投げ込み」は是か非か? [トレーニング・メソッド]

 「球数制限」という言葉が定着して久しい。

 が、未だに、ピッチャーのトレーニングとして、「投げ込み」というメニューをこなそうとする投手、もしくは指導者がいる。

 果たして、「投げ込み」という練習方法はやるべきなのか、やるべきではないのか。

 そして、「投げ込み」とは、何球以上を投げたら、「投げ込み」、で、何球以内なら、「球数制限に沿った投球練習」といえるのか??

 “投げ込み推奨派”で、なおかつ素晴らしい実績も出しているのがこの人。

佐藤義則 一流の育て方 ダルビッシュ有 田中将大との1600日

佐藤義則 一流の育て方 ダルビッシュ有 田中将大との1600日

  • 作者: 永谷脩
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2010/12/01
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

 現東北楽天ゴールデンイーグルスの投手コーチ、佐藤義則氏である。

 たぶん、この本が、佐藤氏が出した最初の書籍…だよね?

 選手としては、当時の最年長ノーヒットノーラン投手(40歳と11ヶ月)であり、昭和最後の20勝投手という記録を残した方でもある。指導者としても、まだ垢抜けなかった日ハムのダルビッシュ有投手を育てあげ、楽天の田中将大投手を“超”一流ピッチャーに脱皮させた、名コーチである。

 この本の前に、「教える力、育てる力」というMOOKに、佐藤氏の指導哲学を紹介する記事が載っていたのを読んで、感銘を受け、速く「専門の本」が発売されないものかと心待ちにしていて、購入した本なのでありました。

教える力、育てる力[セオリービジネス] (セオリーMOOK/セオリービジネス)

教える力、育てる力[セオリービジネス] (セオリーMOOK/セオリービジネス)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2009/11/10
  • メディア: ムック

 じつは、この「教える力、育てる力」という本も佐藤義則氏の記事が載っているからと購入したのだが、前からこのコーチの指導方法に注目していたのは、今、メジャー移籍で大騒ぎのダルビッシュ有投手が、佐藤義則氏が楽天コーチに就任する時、田中マー君に「あの人の言う事は信用していいから」という内容の電話をしたという有名な話を、雑誌で読んで知っていたからだ。

 あの気難しげなダルビッシュを心酔させる、その手腕とはどのようなものなのか?

 滅多に人を褒めない、野村楽天名誉監督からさえ、「目立たないけれど、日本一の投手コーチ」と言われる、その訳は…

 

 

 本文から抜粋する。

 『 大物選手に成長する過程において、誰もが通過しなければならないのが過酷なまでのイジメである。イジメといっても、弱い者イジメをするわけではない。みずからの肉体を限界まで追い込んで、身体に言い聞かせたり潜在能力を引き出すためのものだが、将来、振り返った時に、必ず良き思い出として残っているものだ。

 佐藤は言う。

 「一度、体で覚えたものは一生忘れない。中途半端にやると、体のどこかを壊してしまうこともある。どうせならやらなくてはいけないのなら、徹底的にやろうと選手には話している」

 佐藤自身、プロ入り5年目のオフに、猛烈な特訓を経験している。阪急に入団して2年目、3年目と順調に二桁勝利を上げていたものの、その後の2年間は4勝止まり。壁にぶつかって何かを変えないといけないと思っていた時に、当時の梶本隆夫投手コーチから、「もっと速い球を投げられるように、フォームを改造しよう。そのために、オフにはとことん投げ込みをしよう」と、誘われたのだ。

 プロ野球選手のオフはゴルフが通り相場。しかし、ゴルフ好きの佐藤はそれを封印し、秋季練習から暮れの12月30日まで、毎日欠かさず200球もの投げ込みを行った。投げるほうも大変だが、付き合うほうもしんどいはずである。こうして2ヶ月間、梶本コーチと二人三脚でフォーム固めに取り組んだことで、深い信頼関係も生まれた。

 「いくら煙たがられようが、もっとうまくなってほしいという思いは、必ず選手に伝わるものだ」

 という佐藤の信念は、この時に生まれている。

 「あの時は疲労がたまって腰痛になった。結局、その後の1年間を棒に振ることになったけど、まったく悔いはなかった。1年後にピッチングができるようになると、あの時に固めたフォームをちゃんと体が覚えていた。それからだもの、俺が本当の意味で勝てるようになったのは」

 鍛えるべき時に鍛えよう━━佐藤は自らの体験を通じて、そう選手に語りかけるのだ。』

 …だからといって、よし、さっそく毎日200球投げ込みだ! などと、少年野球の指導者の方は思いこんだりしてはいけない。

 佐藤コーチの話は、あくまで、野球をある程度は極めた選手達の話であって、まだまだ身体ができていない小学生や中学生に毎日200球もピッチング練習させてはいけない。

 まぁ、月に一回程度の、「特訓イベント」としてやるなら、成長が停滞している投手のプラトー状態を打破し、ステップアップに役立つかもしれないが、週に二回の“定例メニュー”なんぞに入れたりしてはいけないだろう。

 そして、あくまで『本人の強い意志』で始めさせるべきだ。

 指導者から命令されて、嫌々やらされているようなら、間違いなく、そのうち故障する。

 

 ところで、冒頭にも疑問を呈したが、はてさて、それでは何球以上投げれば【投球練習】ではなく、【投げ込み】になってしまうのか。その“境目”の投球数は、いったい何球なのか?

 私の調査結果では、おそらく

 75球

 だろう。

 これは勘では無くて、ベースボールマガジン社から出ている「コーチングクリニック」という雑誌(何月号だったか探しているのだが、まだ出てこない)に、投球障害の特集が載っていた事があったのだが、その記事の中で、75球以上投げる投手のグループと、それ未満の投球数のグループとの野球肘・野球肩の障害発生率を比べると、75球以上投げるグループの方が、それ以下の投手グループより30%以上多かった、という調査結果が出ていたからだ。

 今のところ、具体的に投球数を明示して故障発生率の増減を紹介している情報が他に手元に無かったので、とりあえず、私はこの75球という投球数をボーダーラインに設定するのがよろしいんじゃなかろうかなぁ、と思います。

 とりあえず、とはいえ、まぁ、経験上からもいい数字だとは想います。

 最初は、50球程度から始め、肘痛・肩痛その他の好ましくない症状が現れてこないようなら、75球のラインまであげ、そのうち、身体が出来上がってきたな、と思ったら「投球練習球数」を、100球ぐらいまで引き上げても良いのではなかろうか。

 ただ、あまり「球数」だけを意識させるのもどうなのかなぁ、という気がしていた。

 7年間、息子達の所属する学童野球部の指導に携わってきたが、投球練習を「球数」で固定してしまうと、調子が良かろうが悪かろうが100球なら100球、投げるまで終われなくなってしまう。調子が悪い時は、私は、あまり投げ込ませるべきではないかなぁ、という気がしていたので、「球数」ではなくて、「時間」で設定していた。

 タイマーをセットし、30分間、「球数」を意識させずに、ただ黙々とフォーム固めにいそしむ。およそ、平均で1分間、2球ぐらいは投げられるはずだ。そうなると、まぁ、単純計算で30分間で60球ぐらい。およそ、いい感じな「球数」でしょう。

 調子が良い時は、暴投も少ない、だから、キャッチャーもポンポン返球できる、すると、1分間でも3球ぐらい(つまり20秒間に1球ぐらい)投げている時もあった。それでもおよそ90球、よほど意識してポンポンと投げ込まない限り、100球以上の投球数にはならない筈だし、途中、暴投もそこそこするから、いくら調子が良くてもだいたい75球以内には収まっているようである。お試しあれ。

 逆に、調子が悪いと暴投が増える、当然、キャッチャーがボールを取りに行く時間が加算されるので、なかなか球数が増えない。ヘタすると、投球間隔が2分ぐらい開いている時もあった。疲労感がある時も、どうしても投球間隔が開くので、結局、調子が悪い時は、投球数も減る。だから、いわゆる「ヘタを固める」という現象も、ある程度は押さえられている様な気はした。

 それに、アマチュア野球では、ピッチング練習の前にウォーミングアップと称してキャッチボールも散々にやらされるし、ブルペンからフリーバッティングのバッティングピッチャーに直行させられる、なんてシーンも多い。

 だから、1日の練習では、通算するとかなりの球数を投げてしまう結果になりかねないので、指導者の方は良く良く、観察してあげるべきである。

 ところで、私は、なぜピッチング練習のスタートを50球と設定したのか。

 7年間、学童野球の指導に関ってきてのこれは全く「勘」の話であるが、少なくても50球ぐらいは投げさせとかないと、なかなか、投球能力の向上は見込めないような気がする。もし、50球でも肘・肩が痛い、という子は、これは絶対、フォームが改善されるまでピッチャーをやらせるべきではない。いくら球が速かろうが、コントロールが良かろうが、1日おきに50球ぐらい、練習で続けて投げられないようなら、間違いなく、エースナンバーを背負うのは無理であるし、準先発投手、というポジションも難しいはずだ。余程フォーム改造に自信をお持ちでないなら、その選手にはかわいそうだが、早期の野手転向を勧めた方がよろしいのではなかろうか?

 ただ、相手は子供、何かのきっかけや、ちょっと足腰ができてくると、がらりと豹変する選手もいるので、本人に「ピッチャーになりたい」という意思がある限りは、常にチャレンジさせてあげるという姿勢は大事だと想いますが…。余裕があれば、の話ですけど^^;

 しかし現実問題、フォームが固まっていないからって、いつまでも50球しか投げさせていなかったら、成長スピードはかなり遅くなってしまう(キャッチボールやバッティングピッチャーを全くさせなかったとしたら、の話。さんざんバッピをやらせるなら、特別投球練習なんてしなくてもいいかも)。

 次代のエースもしっかりと育て始めなければいけない

 指導者としては、頭の痛すぎる問題だ。

 故障されたら元も子もないが、かといって、成長してもらわなくてはチームとして困る。

 はて、どうしよう。

 その時、フォームを固めさせるために大事になってくる練習方法が、「シャドーピッチング」、であろう。

 フォーム固め、投球時のスタミナアップ、バランス能力の向上を狙って、「投げ込み」はさせたいが、故障されたら元も子もないので、その「補完エクササイズ」として最も有効なのが、私は「シャドーピッチング」であると想う。

 シャドーピッチングにおいてはまた別記事で考えるつもりだが、ピッチング練習の補完トレーニングとして他に有効だと思ったのが「ネットスロー」。

 キャッチャーに対して投げると、ショーバンしたり、暴投してしまうと気になってしまって、どうしても腕が縮こまりがちだが、ネットに対して投げるならば、そういう「精神的負担」が減るので、同じくボールを投げる練習だとしても、同じ投球数でもブルペンよりはかなり障害発生率は減るのではなかろうか。

 ので、【ボールを投げる指先の感覚の鍛錬】+【フォーム固め】のセット練習、という意味合いからすると、ネットスローという練習は非常に有効であったと想う。

 コントロールを良くする、為ならやはり、座らせたキャッチャー相手に“投げ込み”させ、自分の指先からボールが離れる感覚と、キャッチャーが構えたミットに正確にボールが移動してくれたかどうか、というフィードバックを得続けないと改善されないと想うが、自分のリリースポイントがまだはっきりとわからないレベルの子だと、コントロールを気にし過ぎると、腕が縮こまってしまい、かえってフォームが崩れる、という逆説的な現象が起きるような気がする。

 「コントロールを良くするため」には、一度、「コントロールは気にさせない」で、しっかりとフォームを固めさせる、という練習が必要だと私は想った。ので、シャドウピッチング、そして、ネットスロー、というメニューが、ピッチングのためのスタミナアップも兼ねて有効なのだろう。

 エクササイズの「代替案」は、いくらあっても多過ぎることは無いでありましょう。

 ダイエットしたいと、ジョギングばっかりしていたら、膝を痛めて余計身体を動かせなくなった、なんてのは良くある話。

 ジョギングに固執せず、サイクリング、登山、水泳、ダンベル体操、筋トレなどなど、いろいろなメニューで身体を“順繰り鍛錬”してあげましょう。

 同じ運動のみを繰り返すと、同じ関節・筋肉だけを酷使することになり、どうしても故障・怪我の可能性は増すはずだ。

 痛くなってからでは遅い。痛くなる前に、私は、筋肉・腱等の緊張と疲労を、なるべく拡散させてやるべきだと想っている。様々な運動をすれば、それがコーディネーショントレーニングにもなり、運動神経の発達も促してくれると想う。

 

 「投げ込み」なのか、「投球練習」なのか。

 やりすぎはだめ、だが、やらなすぎもだめ、となると、本人が、「どこまでのレベル」を目指すのか、その“覚悟”次第で、「投げ込み」をするかしないかを決めるしかないのでしょう。

 繰り返しますが、「投げ込み」になるかならないかの境目として設定する投球数の目安は、おそらく「75球」。統計は、あくまで試合における投球数ではあると想ったが、75球以上の投球数の投手グループは、それ以下の投球数の投手グループより、肘・肩の障害発生率が3割増加している、という事を指導者はもちろん、投手自身も把握して練習に臨むべきでありましょう。

 ただ、これも、“数字のマジック”という部分はあるので、あくまで目安として考えるべき。投球数が75球以下だったら、全く故障しない、と言っているわけではなく、あくまで、比較するとそれ以上の投球数の投手グループよりも『3割少ない』だけだ、と言っているわけですから、「0」ではないわけです。

 もしかしたら、「50球以上の投球数と、それ以下で比べたら、5割も障害発生率が上がってますよ」、という事実があるかもしれないし、100球で区切って比較したら、それ以上と以下では障害発生率は、1割程度の差しかなかった、なんという可能性もあるかも知れませんので、とにかく個人の能力を良く良く観察し続けてやらせないといけませんでしょう。

 ただ、常識的に考えて、1試合完投しようと想えば平均100球前後は投げなければいけなくなるわけですから、そこいらあたりが考慮の基準になるのは当たり前の話。江夏豊氏は、「1イニングの投球数が、15球より多いか少ないか、調子の良し悪しの目安」とおっしゃっておりました。

江夏豊の超野球学―エースになるための条件

江夏豊の超野球学―エースになるための条件

  • 作者: 江夏 豊
  • 出版社/メーカー: ベースボールマガジン社
  • 発売日: 2004/04
  • メディア: 単行本

 となると、15×9イニングス、で、完投しようと想えば、平均135球も投げなければいけない計算になってしまう訳です。

 となると、ブルペンでも百球以上投げたくなってしまいますが、【投げ込み】をするにしても、ネットスローや、シャドウピッチングを取り入れるなど、怪我・故障のなるべく少ない方法を工夫し、模索し続けるしかありません。

 

 …ところで、別に「競技」として野球をする方でなく、多少の痛みは気にしない、という方なら、“投げ込み”は非常に良い全身運動になりますよ^^;

 久しぶりに打撃練習時のバッティングピッチャーなんてしちゃうとわかるが、肩の筋肉は当然、背筋、腿、お尻の筋肉などなど、体中が筋肉痛に襲われる。

 私が強烈に見舞われるのは、利き腕の三角筋の後部並びに肩甲骨周辺の筋肉、腰骨あたりから始まる、脇に近い背筋ないし腹筋、着足側のハムストリングスに近いお尻の筋肉群、軸足の腿周り筋あたり、と言ったところか?逆に言うと、このあたりの筋肉は“筋トレ”で鍛えておけば、“能力補完エクササイズメニュー”になるわけであり、当然ピッチング能力の向上も見込めるはずだ。

 「ある運動」をしばらく休んで、ほとぼりが冷めた頃に、「その運動」をとことんへとへとになるまで行い、使用する筋肉を酷使し追い込む、ということを時々自分でやってみるのだが、そうすると、次の日(そのまた次の日がもっときつかったりするが…^^;)、その運動で酷使される筋肉がかなり派手な筋肉痛になるので、そうしたらその「筋肉痛をダイレクトに感じる動きになる筋トレ種目」をメニューに取り入れるわけである。きっと、それが「補助トレーニング」になるはずだ。筋肉痛の時に、“その痛みを感じる動作”は、同じ筋肉を使っているハズなので目安になるはず。

 とにかく、一般人の場合は、100球、200球のキャッチボールによる「投げ込み」はとてもよい“エクササイズ”でございます^^; 相手とグラブとボールと場所さえあれば、金もかかりませんしねぇ。動くボールを捕球する、という動作は、神経系のトレーニングにも最適だそうですし。

 …まぁ、特に、野球だジムだ筋トレだって気張らなくたって、案外、掃除や布団干しとかの方が、カロリー消費高かったりしてるんですよ…ね(^_^;)ゞ

 家事労働の方が金もかからないし、家も綺麗になって、精神的にも健やかになれるし、一石二鳥(三鳥?)ですかな!?


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